原状回復ガイドラインと費用負担の考え方

原状回復の文字と虫眼鏡

賃貸住宅の退去時に「どこまでが貸主の負担で、どこからが入居者の負担か」の目安になるのが、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」です。大家様・管理会社様が退去精算を説明するときに知っておきたいポイントを、原状回復工事の現場の目線でまとめました。

原状回復ガイドラインとは

原状回復ガイドラインは、退去時の費用負担をめぐるトラブルを防ぐために国土交通省が取りまとめたもので、1998年に公表され、2004年と2011年に改訂されています(現在のものは再改訂版)。法律ではありませんが、退去精算の考え方の目安として広く使われています。

また、2020年4月に施行された改正民法では、入居者は通常の使用による損耗や経年変化については原状回復の義務を負わないことが条文で定められました(民法第621条)。敷金についても、明け渡し後に未払い賃料などを差し引いた残りを返すことが定められています(民法第622条の2)。

「原状回復」は入居時の状態に戻すことではありません

ガイドラインでは、原状回復を「入居者の故意・過失や、通常の使い方を超える使用によって生じた損耗・毀損を元に戻すこと」としています。日焼けや家具の設置跡のような、普通に暮らしていて生じる傷み(通常損耗)や、時間の経過による傷み(経年変化)の修繕費は、家賃に含まれているという考え方です。

  • 経年変化・通常損耗(日焼け、家具の設置跡など)……貸主の負担
  • 入居者の故意・過失、手入れ不足、通常の使い方を超える使用による傷み……入居者の負担
  • 次の入居者を確保するためのグレードアップや、破損していない物の交換……貸主の負担

場所ごとの負担区分の例

場所貸主の負担になりやすいもの入居者の負担になりやすいもの
床(畳・フローリング・カーペットなど)貸主の負担:日照などによる畳の変色・フローリングの色落ち、家具の設置によるへこみ・跡、次の入居者のための畳の表替え入居者の負担:飲み物などをこぼしたまま放置したシミ・カビ、冷蔵庫下のサビ跡の放置、引っ越し作業でついたキズ
壁・天井(クロス)貸主の負担:テレビ・冷蔵庫の裏の黒ずみ(電気ヤケ)、ポスターや日照によるクロスの変色、画鋲・ピンの穴(下地ボードの交換が要らない程度)、エアコン設置のビス穴入居者の負担:台所の手入れ不足による油汚れ、結露を放置して広がったカビ・シミ、タバコのヤニ・臭い、下地ボードの交換が必要なくぎ穴・ネジ穴、落書き
建具・設備貸主の負担:破損のない網戸の張替え、地震で壊れたガラス、耐用年数を過ぎた設備の故障、破損・紛失のない鍵の交換入居者の負担:ペットによる柱・建具の傷や臭い、手入れ不足による浴室・トイレ・洗面台の水垢やカビ、鍵の紛失・破損による交換
清掃貸主の負担:入居者が通常の清掃をしている場合の専門業者によるハウスクリーニング、台所・トイレの消毒入居者の負担:手入れ不足によるガスコンロ・換気扇の油汚れやすす
壁に開いた穴と破れた壁紙

写真のような壁の穴やクロスの破れは、原因によって負担が分かれます。画鋲程度の小さな穴は通常損耗とされやすい一方、物をぶつけて開いた穴や、重い物を掛けるために開けた下地ボードの交換が必要な穴は、入居者の負担になりやすいものです(クロスの張替え)。

経過年数(耐用年数)による負担割合

入居者の過失で張替えが必要になった場合でも、入居者が新品の費用をすべて負担するわけではありません。ガイドラインでは、材料ごとの耐用年数に応じて価値が下がっていくと考え、入居年数が長いほど入居者の負担割合が小さくなります。

材料・設備経過年数の考え方
クロス(壁紙)・クッションフロア・カーペット耐用年数6年。6年で残存価値1円となるよう、入居年数に応じて負担割合が下がる
フローリング部分補修は経過年数を考慮しない。全体を張り替える場合は、建物の耐用年数で考える
畳表・襖紙・障子紙消耗品として扱い、経過年数は考慮しない
設備機器(エアコン・給湯器など)それぞれの設備の耐用年数で考える

※例:新品のクロスの部屋に3年住み、入居者の過失でクロスの張替えが必要になった場合、クロスの価値は約半分になっているため、入居者の負担は張替え費用の約50%が目安になります。入居時にすでに使用済みだった場合などは計算が変わります。

入居者が負担する範囲(どこまで直すか)

場所負担の範囲の考え方
クロス原則は傷んだ部分の㎡単位。ただし、色や模様を合わせるため、傷んだ箇所を含む一面分までは入居者の負担とされることがある
畳原則1枚単位
フローリング原則㎡単位。傷みが複数の箇所にわたる場合は、その部屋全体
カーペット・クッションフロア傷みが複数の箇所にわたる場合は、その部屋全体

「タバコのヤニで部屋全体のクロスが変色している」場合は部屋全体の張替えが入居者の負担になりやすい、といったように、傷みの広がり方によって範囲が変わります。

特約(クリーニング費用の負担など)の考え方

契約書で、ガイドラインと違う負担(たとえば退去時のハウスクリーニング費用を入居者の負担とする)を定めることもできます。ただし、次のような条件がそろっている必要があるとされています。

  • 特約が必要な理由があり、暴利的でないなど、客観的・合理的な理由があること
  • 入居者が、通常の原状回復の義務を超えた負担をすることを理解していること
  • 入居者が、その負担をすることに合意していること

金額や範囲を契約書に具体的に書き、契約時に説明しておくことが、退去時のトラブルを防ぐことにつながります。

店舗・オフィス(事業用)の場合

ガイドラインは主に住宅の賃貸を想定しています。店舗・オフィスでは、通常の損耗も含めて入居時の状態に戻す特約が結ばれていることが多く、スケルトンで借りた店舗はスケルトンに戻すのが一般的です。工事の範囲は契約書の原状回復条項と入居時の図面で決まりますので、退去が決まったら早めに確認しておきましょう(店舗の原状回復・オフィスの原状回復)。

原状回復110番のお見積り

原状回復110番では、ご希望に応じて「経年劣化・通常損耗によるもの」と「入居者の過失などによるもの」を分けてお見積りに記載し、傷みの箇所を写真で記録します。入居者への精算のご説明にお役立てください。工事の進め方はご依頼の流れ、費用の目安は原状回復工事の費用の目安をご覧ください。

※このページはガイドラインの考え方を分かりやすくまとめたもので、個別の事案の負担を判断するものではありません。実際の負担は契約書の内容や個別の事情で変わります。精算の判断は貸主様・管理会社様でお願いいたします。退去精算のトラブルについては、消費者ホットライン(局番なしの188)などの公的な相談窓口もあります。

原状回復ガイドラインのよくあるご質問

ガイドラインに法的な強制力はありますか?

ガイドライン自体は法律ではありません。ただし、2020年4月施行の改正民法では、通常の使用による損耗や経年変化は入居者の原状回復義務に含まれないことが条文で定められており、ガイドラインの考え方と同じ方向です。実際の精算では、契約書の内容とあわせて判断されます。

クロスの張替え費用は、入居年数が長いと入居者の負担が減るのですか?

はい。入居者の過失で張替えが必要になった場合でも、クロスは耐用年数6年で価値が下がっていく考え方がとられるため、入居年数が長いほど入居者の負担割合は小さくなります。6年を超えると、残存価値は1円となり、入居者の負担はほぼなくなります。ただし、入居者の故意・過失による張替えの作業費などは別に扱われることがあります。

退去時のハウスクリーニング費用は誰の負担ですか?

入居者が通常の清掃をしていれば、専門業者による退去後のハウスクリーニングは貸主の負担とするのがガイドラインの考え方です。ただし、契約書で「退去時のクリーニング費用は入居者の負担」と金額や範囲を明記し、入居者が合意している場合は、その特約が有効とされることがあります。

店舗やオフィスにもガイドラインは使えますか?

ガイドラインは主に住宅の賃貸を想定したものです。店舗・オフィスなどの事業用物件では、通常の損耗も含めて入居時の状態(スケルトンなど)に戻す特約が結ばれていることが多く、契約書の原状回復条項が判断の中心になります。

原状回復工事のご相談・無料お見積り

退去後のお部屋の写真を送っていただくだけでも大丈夫です。クロス・床・クリーニング・設備の修繕まで、必要な工事をまとめて、内訳の分かるお見積りでご提案します。

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